ケルンのCマウントレンズには、“AR”と“RX”という2つのタイプが存在する。“RX”タイプは、プボレックス社のRXのムービーカメラ用につくられたレンズ。このカメラはプリズムによって、光の一部をファインダーに導き、残りをフィルムに導く。プリズムを透過した光は、収差がより大きくなる。この収差を補正をしたレンズが“RX”タイプのレンズだ。
しかし、スチルカメラやデジタル一眼カメラは、プリズムを透過した光は、ファインダーのみに導かれ、フィルム面やセンサーに導かれる光はプリズムを透過しない。つまり、“RX”のレンズは、余分な収差補正をしてしまうことになる。このことで、RXのレンズは、特に開放ではフレアがかかったような描写になり、写りが甘いとか言われる。良く言えばやわらかい写りをする。
さて、それでは両者のレンズはどのような違いを見せるのか?気になるところである。そこで、Kern-Paillard のSwitar 25mm F1.4のARとRXのレンズで撮影したものを比較してみたいと思う。
今は、ARのレンズは手放してしまったので、時期は異なるが同じ花屋さんでRXレンズでも撮ってみた。この花屋さんは、屋内にあって人工照明なので光線状況はあまり違わないので、参考になると思う。
上の2枚は、Kern Switar 25mm F1.4のARタイプのレンズで撮影した写真。いずれも絞りは開放のF1.4
上の2枚はKern-Paillard 25mm F1.4のRXで撮った写真。いずれも絞りは開放のF1.4
比べてみてどうですか?どちらも開放のクローズアップで撮った写真は、同じような写りをするような気がする。ボケは、RXの方が素直なボケ具合か。ARの方が玉ボケのような感じ。どちらが良いかは好みの問題だろう。
少し引いた写真では、ARの方が周辺減光が大きい。周辺の描写は、ARの方は均等に解像力が落ちてボケていく感じで、RXの方な外側に流れる感じでボケていくといったところか。
上の写真は、RXで撮影したもので、絞りはF2.8。下の写真は、ARで撮影したもので、絞りは多分、F2.0か、2.8だったと思う。
モチーフがまったく違うので、単純に比較できないが、周辺の流れ具合はRXの方が大きく、このような描写はARのレンズではでなかったように記憶する。
やはり作例が違うと明確な比較は難しい。幸い、ARでテスト用に撮った写真があったので、同じファミレスの同じ席からRXでも撮ってみた。メニューが変わっているだけでほとんど同じ条件なので、比較しやすいと思う。この小さな画像でも明らかに描写が異なっていることがよく分かる。
下の写真をクリックするとオリジナルの50%の大きさの画像を表示します。
SWITAR 25mm F1.4 AR | SWITAR 25mm F1.4 RX | |
絞り F1.4 | ||
絞り F2.0 | ||
絞り F2.8 |
カメラ位置は同じ席で、同じテーブルのメニューにピントを合わせているのだが、まずよく分かるところが、バックのボケ量の大きさが異なることだ。 RXの方が背景ののボケ量が大きいことがよく分かる。周辺減光は、ARの方が大きい。全体の印象は、RXの方がフラット気味の描写になるようだ。そして、今まで気がつかなかったことであるが、前ボケは、RXの方がボケ量が少ない。というより、ピントが来ているところから手前に被写界深度が深いということだ。テーブルの手前の椅子が結構よく写っているではないか。ARと比較してみると小さい画像でも明らかにその違いが分かる。
これはテクニックとして、ピントを合わせるときに近距離から合わせていった方が、ピンボケになる可能性が低くなるのではないだろうか。心持ち前ピン気味にピンを合わせた方が失敗が少なくなるような気がする。でもこれだけ前方の方に被写界深度が深いレンズはあまり記憶にないような気がする。これが、プリズム透過を前提とした収差補正の特徴のひとつであるかもしれない。
さて、次に気になるところは、細部の描写だ。特にピントがあったところの解像力は、ARの方が高いというのが定説のようであるが、果たしてその通りなのであろうか。下の写真は、ピントが来ている部分をピクセル等倍で切り出したものだ。
SWITAR 25mm F1.4 AR | SWITAR 25mm F1.4 RX | |
絞り F1.4 | ||
絞り F2.0 | ||
絞り F2.8 |
絞り開放では、RXの方がフレアっぽいが解像力が劣るとは思えない。
両者とも、F2.0まではあまり改善しないようだ。ARのほうは、開放よりもF2.0の方が悪く見える。これは手ぶれをおこしたかもしれない。いずれにせよ両者とも開放からF2.0まではあまり変わらず、F2.8まで絞ると格段にシャープになるようだ。
この写真のいちばん遠い距離にある「DRINK BAR」というサインがあるが、この文字のボケを比較してみた。
SWITAR 25mm F1.4 AR | SWITAR 25mm F1.4 RX | |
絞り F1.4 | ||
絞り F2.0 | ||
絞り F2.8 |
両者ともボケ具合は素直で満足のいくレベルだ。特にRXの方は、とても滑らかに滲んでいくようなボケでとても美しい。普通、絞っていくほどにボケが小さくなっていく。ARの方はそのようになっているが、RXの方は絞り込んでいってもボケがあまり小さくならないようだ。開放のF1.4よりもF2.0の方がボケ量が多いので、写真を間違ったのかと思い、確認してみたが間違ってはいなかった。F2.0のほうが周辺光量が増すので、その分明るくなるため、ボケが大きくなっているように感じるだけだろう。
これはRXタイプの特徴ではないだろうか。過剰な収差補正が影響しているのかもしれない。絞っていくと解像力が高くなるのは、ピンが来ているところで、背景は解像力が上がらないので、このような結果を生むのかもしれない。
次に、ランプシェードをピクセル等倍で切り出してみた。
SWITAR 25mm F1.4 AR | SWITAR 25mm F1.4 RX | |
絞り F1.4 | ||
絞り F2.0 | ||
絞り F2.8 |
上の写真を見ると、ARとRXの違いがよく分かる。RXでは、バックに光源や白っぽいものがあると輪郭をハロで縁取ったような描写になる。
全体的な傾向では、RXの方がフレアっぽく、ベールを被せたような描写になり、淡く写る。一方、ARの方はこってりとした色ノリで、メリハリがついた描写になるようだ。どちらが良いかは、好みの問題だろう。
私個人としては、RXの淡くやさしい写りの方が好みだ。